「ITブリコラージュ」とは、身近にあるITを活用して課題や問題を解決する手法です。
ブリコラージュとは
「ブリコラージュ(bricolage)」は、クロード・レヴィ=ストロースが著書『野生の思考1』で「器用仕事」と紹介している行動様式です(「DIY」「日曜大工」と考えるとわかりやすいと思います)。
同書では、ブリコラージュを実践する人をブリコルールbricoleur(器用人)と呼び、くろうととはちがって、ありあわせの道具材料を用いて自分の手でものを作る人と説明しています(「器用人」は“器用な人”という意味であると思われます)。
ブリコラージュ(bricolage)とは、ありあわせの道具材料を用いて自分の手でものを作ることであると考えてよいでしょう(基本的には『再利用(リユース)』の考え方です)。
ではなぜブリコルールは「くろうととはちがって」なのでしょうか。実はここでいう“くろうと”とは、エンジニアのことです。『野生の思考』から引用します。
ブリコルールは多種多様の仕事をやることができる。しかしながらエンジニアとはちがって、仕事の一つ一つについてその計画に即して考案され購入された材料や器具がなければ手が下せぬというようなことはない。
ブリコラージュとは、エンジニアリングに対比される様式といえます。
このことを平易な例をあげて説明します。食べたいと思った料理を作るため、食材や調味料を買い、道具をそろえ、レシピどおりに調理を進めるのはエンジニアリング的なアプローチです。
これに対して、冷蔵庫をあけて、そこにある食材や残り物を手にとり、もちあわせの道具や調味料を使って、漠然と想像した料理を仕上げていくのがブリコラージュ的なアプローチです。
ふたたび『野生の思考』の、上記引用部分の続きは以下のとおりです。
彼(ブリコルール)の使う資材の世界は閉じている。そして「もちあわせ」、すなわちそのときそのとき限られた道具と材料の集合で何とかするというのがゲームの規則である。しかも、持ち合わせの道具や材料は雑多でまとまりがない。なぜなら、「もちあわせ」の内容構成は、目下の計画にも、またいかなる特定の計画にも無関係で、偶然の結果できたものだからである。すなわち、いろいろな機会にストックが更新され増加し、また前にものを作ったり壊したりしたときの残りもので維持されているのである。したがってブリコルールの使うものの集合は、ある一つの計画によって定義されるものではない。
ITブリコラージュ
現代社会は情報技術(IT)に取り囲まれています。
手元にあるスマートフォンやタブレット、PCの中にはさまざまな機能を持つ、数多くのアプリケーションソフトウェア(以降アプリと略す)があります。例えば天気、地図、ニュース、銀行やクレジット、書籍や音楽、SNSにアクセスすためのアプリは、それぞれに多数存在します。たいていの利用者は、おそらくは利用の場面に合わせて、個人の好き嫌いに合わせて、家族・友人などの都合や利用機関ごとの必要に合わせて複数の似たような種類のアプリを用意し、場合々々の都合で使い分けているのではないでしょうか。
すなわち我々はすでに、たまたま周囲にある身近なIT(アプリ)を利用して課題や問題を解決する、賢い生活をおくっているのです。
情報技術(IT)の世界では、これまで(現在でも主流といえるでしょうが)エンジニアリング的なアプローチによって仕組み(ITシステム)が構築されてきました。
例えば解決すべき課題や問題があって、ITシステムの導入によって解決を図る場合には、企画・設計の段階で必要な技術や機能を洗い出し、開発⇒導入⇒運用というような一連の手順を進めてきました。
しかし今や、解決すべき課題や問題に対してのITのかかわり方はエンジニアリング的なアプローチだけではありません。身近にあるITを賢く使って、課題や問題を解決するということができる時代になっているのです。このように、ITを活用したブリコラージュ的なアプローチによって課題や問題を解決する手法を、“ITブリコラージュ”と呼びます。
- クロード・レヴィ=ストロース 『野生の思考』 みすず書房 2013年 第37刷 ↩︎
