会社の設立を申請する前に決めておかなければならないことを整理しておきましょう。いざ会社設立の申請書を書こうとすると、まっさきに行き詰まる点ばかりです。
筆者の経験談を盛り込みましたので、きっと参考になるのではないかと思います。
申請の方法を決める
まず合同会社の設立の申請は、紙で行うか、電子で行うかを決めましょう。
そのとき「今どき“紙”かよ」と、早々に結論を出さないほうがよいと思います。
書店や図書館に行くと合同会社の設立についての本はたくさんありますが、電子での設立申請について詳しく書いたものは、筆者の見聞では、ありません。ですので電子での申請を選択した場合は、いきおい自分でやり方を調べるところからはじまるのです。その際に会社設立のプロでもない一般ピープルがいくら調べても、肝心なところ、迷うところ、思ってもみないところの情報が抜け落ちる可能性があります。電子での申請は、意外に苦労する1のです。ですので短期間で、確実に会社設立を遂げたいと考えているのであれば、紙をおすすめします。
実際の話、やってみるとわかりますが紙と電子の申請の違いは以下のような点くらいで、大差はありません(私見ですよ)。
- 紙での申請には、収入印紙(4万円)の貼付が必要になります。電子申請では収入印紙は不要です(そのぶん費用は節約できる)。
- 紙での申請の方法については参考となる書籍などが多いので、わからないことを調べる時間を取られることがすくない。
- 徐々にではあるが電子的な申請や納付が増えてきているので、今後のことを考えれば最初(会社設立時)から電子申請に慣れておくのがよい。
また「電子申請」とひとことで言っても、このことばの意味として以下の2つがあります。
- オンラインで提出する方法
- 電磁的記録媒体に記録し、提出する方法
電磁的記録媒体っていったい何だろうと思われたみなさま、これはCD-RやDVD-Rのことです(だそうです)。
電磁的記録媒体というのは物理的な存在(モノ)ですので、けっきょくはそのモノを法務局に持参または書留郵便で送付しなければなりません。ここで「あれ?」と思ったみなさま! そうです、だったら印刷して紙で提出しても違いはありません(しかもそちらのほうがずっと手間がかかりません)。
このあとこのコラムでは電子申請、それもオンラインでの申請を、筆者の経験にもとづいて説明します(紙や電磁的記録媒体での申請については説明していませんのであしからず)。
さて電子で申請するか(紙で申請するか)を決めたら、実際の設立申請の前に、以下の3点を決めていきます。
- 会社の住所(本店所在地という)を決めます。
- 自宅にするか、事務所を借りるかを決めることになります。
- 会社の名前(商号)を決めます。
- 会社名として使えそうかどうかを調査し、決める必要があります。
- 会社の事業内容を決めます。
- 事業を決めますが、事業は多くても“3つ”くらいにするとよいでしょう。
ではひとつひとつ説明していくことにします。
会社の住所を決める
会社の住所(本店所在地という)は、名刺や請求書や自社のWebサイトに載せることになります。そのため「せっかく会社を設立するのだから…」と、見栄えを気にして背伸びしてしまいたくなる気持ち(例えば、東京都港区六本木だったらカッコいいなといった感覚)も湧かないわけではないでしょう。このあたりは設立者の希望や好みにかかわることでもありますので、最後は自由に決めていただいて構わないと思います。これから設立する自社のイメージに合った住所を選択するというのは、それはそれで立派な理由です。
以下の説明は、会社の住所を決める際に筆者が考えたもろもろの想定や、突き当たった制約や条件です。ご参考になさってください。
まず会社の住所を決めると、税の納付先も決まることになるのを心にとめておく必要があります。法人税などの国税を税務署におもむいて納税するようなことも今後は減っていく(例えば、納税をオンラインで行う)ことになるでしょうが、税務署への交通の便を確認し、場所を加味して会社の住所を決めるのもよいかもしれません。
くわえて、法人住民税などの地方税の金額は会社の住所がある都道府県や市区町村によって違いがある可能性があります。ですので、会社の住所を置く自治体の情報を確認しておいたほうがよさそうです。
そうはいっても会社の住所は、現実的には、自宅にするか、事務所を借りるかの二択しかありません。会社の住所を自宅にしたら、自動的に都道府県・市区町村がきまります。会社の住所を自宅以外にする(つまり事務所を借りるなど)場合であっても、現実的には居住している自宅の近隣の都道府県・市区町村になるでしょう。会社の住所は、どこにしようかと悩みはするものの、さほど多くの選択肢があるわけではないというのが現実でしょう。
会社の住所を自宅にする場合には、以下の2点に気をつけます。
- 自宅が賃貸の場合、法人登録可能かどうかを確認しておく必要があります。
- 賃貸住宅の場合、賃貸期間を終了したときに会社の住所も変更(登記事項の変更)しなければなりません。
- 住んでいない賃貸住宅を会社の住所としたままに放置しておくと、重要な通知等が手元に届かなくなってしまいます。
- 場合によっては、会社の登記事項の変更が完了したことを証する登記簿謄本の提出を家主から求められることも考えられます。
- 賃貸住宅の住所を無断で会社の住所とした場合、トラブルのもとになりかねませんので注意してください。
- 持ち家の場合、家族の了解を得るようにしておきます。
- 会社の住所宛に通知やダイレクトメールが届くようになりますから、家族の了解なしに自宅を会社の住所にするのはやめましょう。
- 会社を登記すると、会社の住所として自宅の住所が一般に公開されることになります。住所の公開に慎重にならざるをえない家庭事情がある場合も考えられますから、家族の了承は必要です。
いっぽう事務所やシェアオフィスを借りて会社の住所にする場合の注意点は以下になります。
- 事務所を借りる場合、とくに費用について熟慮の必要があります。
- 店舗を必要としている事業を行うのであれば別ですが、ひとり社長で、売上もままならぬ会社設立時から事務所を借りると、とたんに行き詰まる可能性もあります。事務所を借りる場合には初期費もさることながら、賃貸料が固定費として毎月かかりますから慎重に考えたほうがよいでしょう。
- 事務所の賃貸期間を終了したとき(賃貸契約を更新しなかった場合など)に会社の住所も変更(登記事項の変更)しなければなりません。
- 場合によっては、会社の登記事項の変更が完了したことを証する登記簿謄本の提出を貸主から求められることも考えられます。
- シェアオフィス等を借りる場合、提供されるサービスを考慮します。
- シェアオフィス等には、数々のサービスが附帯しています。必要なサービスが得られるか、必要以上のサービスが盛り込まれていないかよく確認しましょう。
- シェアオフィス等を借りる場合、独立した事務所を借りるよりは安く上がる傾向にあります。ですが、事務所を借りる場合と同じ注意が必要です。
- シェアオフィスの利用期間を終了したときに会社の住所も変更(登記事項の変更)しなければなりません。
- 場合によっては、会社の登記事項の変更が完了したことを証する登記簿謄本の提出をシェアオフィスの運営会社から求められることも考えられます。
- 公共的な施設がある場合、見学などを行い条件を確認しましょう。
- 起業の支援の一環で、公共的な施設に会社の住所を置くことができる場合があります。居住している市区町村にそのような公共サービスがないか確認しておくとよいでしょう。
- 外の事務所やシェアオフィスを借りるよりもはるかに安い料金で利用できる可能性がありますので、そのような施設がないかぜひ調べてみましょう。
- 公共的な施設は、筆者の経験では、意外と厳しい条件が付けられていることがあります(例:起業後一定の年数で退去しなければならない、ほぼ毎日その施設を利用することが求められる)。条件を確認し、順守できるかどうか考える必要があります。
- 申込時に審査に時間がかかる(数週間~数ヶ月)ので注意が必要です。
- 申込時に審査があると考えておいたほうがよいです。そして審査には、ときに思った以上の時間がとられます。なるべく早く起業したい、とある期日までに必ず起業したいなどの制約条件があると、「事務所を借りる」「シェアオフィスを借りる」「公共的な施設を借りる」のどの場合でも条件を満たさない可能性があります。注意しましょう。
会社の住所 筆者の経験から
筆者の場合、事務所を借りることは最初から考えませんでした。考えうる選択肢の中でも、初期費用も毎月の賃料も最も高額になるということが想定されたためです。
いっぽうシェアオフィスについては、候補をネットで複数検索して、料金やサービスの比較検討を行いました。
比較検討を行った項目には、「名称」「住所」「アクセス」「管轄の税務署」「本店住所の名称表現がどうなるか」「入会費」「会員種別ごとの料金」「利用時間」「登記可能か」「シェアオフィスの入り口に社名の表示が可能か」「会議室の使用」「ポスト」「電話設置」などがあります。シェアオフィスを実際に検索して調べ始めると、これら以外の比較項目も思い浮かぶと思います。ぜひ自分の視点でまとめてみてください。
比較項目のうち、次の点については注意が必要だというのが筆者の考えです。
- 「アクセス」は重要です。立地が遠い(電車通勤になるなど)場合には、通勤費が必要になるので、これが固定的な経費として会社経営にのしかかってくることを考える必要があります。
- あと、地味ですが、しかも筆者の経験的な話で恐縮ですが、定年後はけっこう外出するのがおっくうになります。とくに遠い場所だと、出勤する気持ちが萎えてしまうのをどうするかというのは考えておいたほうがよい気がします(「外出がおっくにならないために、あえて」という考え方もあるでしょうから、このあたりは個人差が大きいとことでしょう)。
- 「シェアオフィスの入り口に社名の表示が可能か」「ポスト」は、筆者が実際に会社を設立する前には軽視していた項目です。ですが、意外に郵便物が来るので必要であると思われます。
- 「電話」は、最近はめったには使いもしないのに、申請などで必要となります。会社設立の前は当然まだ法人格を持っていませんので、会社の名義で電話を契約することはできません。そのためシェアオフィスの電話か、もしくは会社設立の申請書には自宅の電話を使うか、もしくは設立者本人のスマートフォンの番号か、あるいはスマートフォンに050電話を新たに引く必要がでてきます。
シェアオフィスの比較を行ったら、気になる候補先には必ず実際に見学に行ってみます。実際に行かないとわからないことは多いものです。建物やスタフの雰囲気は肌で感じてみないとわからないものです。同じアクセス時間だったとしても、きつい登り坂ばかりかもしれません。必ず見学しましょう。
起業支援の一環で都道府県・市区町村が運営している公共的な施設についても、筆者は候補をネットで複数検索して、料金やサービスの比較検討を行いました。また実際に見学して担当者に話を聞きました。
筆者の印象では、公共であるせいなのか条件が非常に厳しいというのが正直なところです。筆者が実際に経験し、厳しいなと感じた(実際にあった)条件には次のようなものがあります。
- 基本的に、施設に毎日通勤してくるのが原則となっている。
- 定員があって、満杯になっていて新規の募集していない。次の募集の予定はない。また募集を待っている待ちが多数いて、募集があってもすぐに利用できるような状態にはなっていない。
- 施設の方針として「起業」に特化していて、起業から3年たつと施設を出る必要がある。
- 申込時の審査に数ヶ月かかる。申し込みがあると、そのあとの月に(年に何回か開かれる)審査委員会(のようなもの)で審査され、審査の結果の通知はさらに先になる。
このように、条件の詳しいことを事前にWebサイトなどで完全に知るのは難しいのではないかと思います。ぜひとも施設を訪ねてみて、担当の方に根掘り葉掘り聞いてみるのがよいでしょう。施設の人はみなさん親切に、細かい点まで教えてくれます。
会社の住所 筆者はどうしたのか
まず筆者の身には起きた、会社の住所を決めるまでに起こった出来事をお伝えして、けっきょくどうしたのかを説明しましょう。
先の述べたとおり、公共の施設は条件が厳しすぎて筆者の条件には当てはまらないと考えて断念しました。とくに審査に何ヶ月もかかるのは受け入れがたく、あきらめることにしました。ただ施設の良さ(建屋や什器、提供サービスの良さ)は随一で、条件のきつささえなければ理想的であったので残念でした。
次にシェアオフィスですが、これには有望なところが見つかって、実際に利用の申し込みを行いました。しかし思いがけないことが重なり、これも断念しています。
これはたまたま筆者の運が悪かっただけだと思われもするのですが、実はシェアオフィス側のミスで筆者の申し込みが見落とされてしまったのでした。利用の申し込みを、ちょうど正月の時期に行った(新規の利用申込はWebからいつでもできるようになっていました)のがいけなかったのかもしれません。
シェアオフィスの利用申込を行ったいっぽう、並行して進めていたそのほかの会社設立準備の作業は順調に進んでいました。そのためシェアオフィス側のミスが発覚して、シェアオフィスの利用申込が全く行われていなかったことがわかったときには時間的に手遅れになってしまっていたのです(シェアオフィスの審査期間は1週間程度で短かったのですが、他の事情が入って日程的にそれでも待てない時期にさしかかってしまっていました)。
けっきょく筆者は、自宅を会社の住所としました。
設立準備の作業でてんてこまいしている姿や、シェアオフィスの利用ができなくなってしまった経緯を横で見ていた家族が筆者を哀れに思ったのか、自宅を会社の住所とすることに理解を示してくれました。
さてこれでめでたしめでたしではあるのですが、すこしだけ補足します。自宅を会社の住所にすると、外の事務所・シェアオフィス・施設を借りずに済みますので、そのぶんの費用はかからないという利点があります。それならばということで、こういうことを聞いたことはありませんか「自宅を会社にしたとき、利用部分をその会社の経費にすることができる」と。
しかし結論からいうと筆者の場合、自宅内の会社利用部分を経費するのはあきらめました。筆者が調べた範囲では「自宅の一室を会社で占有できるのであれば相当分を経費にできる」ようです。ですが部屋数に余裕があって、あらかじめ会社で占有することを考慮していたのであれば別ですが、そんな都合によいはずもなく、実際には難しい(=経費にするのは難しい)となりました。
会社の住所 自宅にしたらなにがおきるか
自宅を会社の住所にすると、以下の変化があります。
- 自宅住所が国税庁の法人番号公表サイトなどに掲載されます。
- 自宅に、会社宛の郵便物が届くようになります。
- 税務署、日本年金機構(⇒これらは致し方ない)などからの公的な通知
- 会社への売り込みの郵便物
- 自宅住所を、自分で情報発信しなければならなくなります。
- 名刺に書く必要があります(⇒工夫のしようはあると思いますが)。
- 請求書などに書く必要があります(⇒これは避けられないと思う)。
- 自社のWebサイトに掲載する必要があります(⇒ふつうWebサイトに会社情報として掲載されているのが多いと思いますが、どうでしょう)。
自宅の住所が国税庁のサイトに堂々と載ってしまうのは、ちょっとだけ抵抗感がありました(今もあります)。役所からの郵便物が届くようになるのは致し方ないところでしょうけれども、(個人宛の売り込みの郵便物に加えて)会社への売り込みの郵便物が増えるのには正直避けたいところでした(今もできるなら避けたい気持ちです)。あまつさえ自分自身で、名刺等に記載して自宅の住所をばらまかねばならないという事態に陥るので、これはかなりの憂慮のネタです。
電話番号のこと
会社設立の申請には、電話番号が必要となります。どうやら申請書の内容に間違いや不足があった場合の連絡用らしいので、使用する電話番号はどれにしてもさほど気にしなくてよいのかもしれません。筆者の場合ですが、実際にどこからか電話がかかってきたことはありません(設立後の半年以上は経過しています)。
現代でしたらメールのような他の連絡手段があるので、おそらくは申請書が昔のままになっていて見直しが行われていないだけの話なのかもしれません。「電話番号は必須ではない」というネット記事を見かけたことがありますが、筆者は未確認です。
いずれにしても会社設立の申請書にどの電話番号を使うかを検討し、事前に決めておく必要があります。
- 自宅の固定電話の電話番号を使う場合 ⇒筆者の選択
- 自分の個人スマホの電話番号を使う場合
- 公私が混同するのでなるべく避けたいところであります。
- 自分の個人スマホに050電話を導入する場合
- 月額数百円レベルの負担で、個人スマホに新たに050電話を導入できます。当然ですが以降、毎月固定的に費用がかかることになります。
- 会社設立の前なので、会社の名義で契約することはできません。
郵便物のこと
会社の住所を自宅にして会社を設立すると、当然ながら会社宛の郵便物が来ます。起業する前は「もしかして大量の不要DMが届くのでは」と恐れていましたが、筆者の場合は実際にはそうでもありませんでした(現在進行形)。
会社設立から最初の3ヶ月間に届いたものは、筆者の場合は21通でした。この数字をどうみるかですが、1ヶ月あたり7通ですから恐怖を覚えるほど数ではなかったのがおわかりいただけると思います。21通のDM内訳は以下のとおりです。
- 事務用品購入のすすめ
- 印鑑作成のすすめ
- 銀行口座開設のすすめ 2通
- 経理サービスのすすめ 3通
- クレジットカードのすすめ 3通
- カーシェアのすすめ 2通
- 補助金申請の代行
- 証券会社
- 売掛債権の買取、資金調達
- ガソリンスタンドの法人会員サービス 2通
- Googleマップへの登録代行
- 情報通信サービス
- クレジット決済サービス
- 補助金のガイド
前述のとおり役所の重要な郵便物も自宅に届きますので、そういった点では会社の住所を自宅にするとらくちんです(外の事務所・シェアオフィス・公共施設にしてしまっていたら、郵便物が届くたびに、郵便物が届く見込みのときにわざわざ外出しなければなりません)。
ただし忘れてはならないことは、自宅のポストに会社名を載せておく必要があるということです。また近くの郵便局に会社を設立した旨を連絡しておきましょう。そもそも建物の住所というのは、「玄関」がある通りに面した場所で決まっています(住所の決まり方は厳密にいうと正確ではありません)。ですから、とくに戸建てでは隣近所で同じ住所の家が複数存在する可能性があります。そう、郵便配達の方々は、住所情報だけでなく住居者の氏名を頼りに配達しているのです。このため、これまで個人宅だと思っていたところに見慣れぬ会社宛の郵便物が届いたとき、ヒントがなにもなければそれをどの家に配達したらよいかわからないことになってしまうのです。自宅ポストに会社名を明示し、さらに近隣の郵便局に連絡しておくのにはそういう意味があります。